2013年2月12日火曜日

地獄のロマンス『ルビー・スパークス』


ストーリー:若くして天才作家としてもてはやされたカルヴィン(ポール・ダノ)だったが、今ではひどいスランプに陥ってしまっている。そこで、理想の女の子“ルビー・スパークス”の物語を書くことに。執筆に没頭していたある日、何とカルヴィンの前に自分が空想して作り上げていたルビー(ゾーイ・カザン)が現われ……。


新宿武蔵野館にて『ルビー・スパークス』鑑賞しました。
1日一回の上映で三連休ラストの18時といったら混雑するのも納得。
結論から言うと理想とはいかに残酷なものか思い知らされました・・・。こう、千のナイフが胸を刺す的な?某バンド的な?まあそれはどうでもいいんですが。
誰しも一度は理想のガールフレンド/ボーイフレンドを想像し、いつかこんな人に出会えたら…と心ときめかした経験はありますよね。外見、性格、趣味、しぐさ、ファッション、ステータスなど自分に都合のよろしいように作り上げ、そのある種の願望の意に反しやがて現実の恋を迎え入れ、その理想を綺麗なまま心にしまっておくのが世の常だとしたら、この『ルビー・スパークス』はその世の常に一石投じた激甘ショートケーキを食べた後に激辛ジョロキアの刺身を食べるような問題作!!

仕事も恋も私生活も抑制されたかつて天才作家と呼ばれた10年スランプ気味のカルヴィン。
ある日、彼は夢を見る。光の中から現れる女の子の名はルビー。回数を重ねるに連れ彼女の魅力に惹かれていく。そしてルビーを題材にした小説を書き始め、次第に物語の中の彼女に恋心を抱くようになる。
ここからカルヴィンの不思議な体験が始まる。
この作品の恐ろしいところは気に食わないところがあればすぐに上書きできるというところ。
例えば、最近彼女が冷たいな~と思っている男子には「彼女は僕がいないと生活がままならない」と書けば彼女はデレデレのベタベタになるのだ。オソロシイ!!!
故に終盤、カルヴィンがある重要な事実をルビーに伝えるシーンではホラーめいた戦慄が劇場を包み込みます。オソロシイ!!!!


小説を書くのに使われるのはPCでも手書きでもないタイプライターなんです。
これが凄く重要な要素だと思うんですね。タイプライターって失敗が許されないもの、後戻りできないものの象徴だと思います。カルヴィンはタイプライターと同じでルビーとの生活を修正するのでなく、上書きに上書きを重ね、彼女の存在意義自体に負荷をかけていく。無意識に。それを見て修正する方法がないタイプライターと修正する方法を知らないカルヴィンが凄くダブって見えます。実際作家デビューをした元カノと出会ったカルヴィンは同業者としてお互いを励ますでもなく、ましてや寄りを戻すでもなく、残ったのは不必要な関係悪化。
その証拠にルビーが居なくなってからのカルヴィンは一皮向けたような顔つきで『ガールフレンド』を作成する。そこで使うのがタイプライターではなくMacBook。カルヴィンは修正するということを知ったのではないかと、思うんです。



















・・・・・よく調べたらタイプライターって修正効くんですね・・・

自分にしては上手く脳内でまとめられたかなと思ったんですが、まだまだ未熟です。普通に考えて修正効かないんだったら超不便ですもんね。
でも、あながち間違ってないんじゃないかなー・・・それこそ修正すればいいものをカルヴィンは上書きして文章を足していく。ていうか僕はそう思いましたってだけです。
こちらで映画評論家の藤井仁子さんがタイプライターについて言及しています。http://www.kobe-eiga.net/webspecial/review/2012/11/rubysparks.php 確かに終止符が二重になっていた!!! 



そしてルビーが居なくなってからカルヴィンはこの不思議な体験を元に『ガールフレンド』という小説を発表し、再び天才作家の地位に返り咲く。
心理セラピーの先生はカルヴィンが安定した生活と地位を取り戻したと安心する。カルヴィンは先生にこう言う。
「本当にあったことかもしれないと思ってくれ。僕のために。」

なんて素敵でどうしようもない男の話でしょうか。もうすぐ上映終了ですが、オススメです。