2013年12月11日水曜日

『高速ばぁば』と『カルト』が凄く面白かった件。

『先生を流産させる会』の内藤瑛亮監督最新作『高速ばぁば』と、『戦慄怪奇FILE コワすぎ!』シリーズの白石晃士監督最新作『カルト』をレンタルDVDにて鑑賞。
これがなかなか面白かった!どちらも一週間限定レイトショー公開だったことと、仕事の繁忙期が重なり、レビューも何も見てなかったんですが、それが功を奏しましたね。今回もネタバレはもちろんですが、もしこのブログを観てくれている方がいるなら、この二本は前情報なしで観るのが一番だと思いますので、どうぞ、そっとブラウザを閉じて頂いて、AmazonでもTSUTAYAでも何でもいいので手元に置いてご覧になって頂くことをオススメします。


僕は"結婚"に対して凄く拒絶感というか嫌悪感を抱いている人間なんですが、それを上手く人に説明できないときに内藤監督の『先生を〜』を観たんですね。劇中、先生を流産させる会のメンバーの一人が担任の先生が妊娠したことに対して「先生妊娠してるんだよ?気持ち悪くない?」と言い放った台詞が本当に衝撃的だった。実際にそれによって彼女たちは被害を受けた訳でもないのに。自分と同じ姿形をした人間が持つ生理的な畏怖の念に打ちのめされ、ただ拒絶し「気持ち悪い」としか表現できないその嫌な感じは、まさしく僕が"結婚"に対して想うものと通ずるものがありました。「これはやばいぞ!!」と。「やばいものを観ているぞ!」とその日を境に内藤監督を追うようになりました。どうしても過去の作品は自主制作だけあって発掘するのはかなり厳しいんですが、先日行われたCINEMASTE3.0に参加したときは短編『救済』もさることながら、内藤監督のバックボーンが垣間みれて興味深かったし、何より思ったのは内藤監督の作品は一貫して「思春期の少女の鬱屈した内面がもたらす悲劇」が根底にあるということ。女子のああいうドロついた関係性を静かなトーンで、嫌〜な感じで映し出すのはまさに職人技。今回もそれが遺憾無く発揮されている。
ストーリーはアヤネ、ナナミ、マユコの3人からなるアイドルユニット ジャージガールが廃墟になった老人ホームに肝試しに行くというところから始まるのだが映画冒頭、早速ですよ。ナナミがアヤネのジャージにホッチキスの芯を仕掛けるという鬱屈した行動から始まるんですね。開始1分からもう内藤監督のあの"嫌な感じ"がぷんぷん。
ホラー演出も良い感じ。吸い殻の入ったミルクがあったり、怪しい医院長らしき人物のポスターがあったり、後で発覚する事態の細かーい伏線が散りばめられている中、アヤネが初めて高速ばぁばに接触するシーン。カメラが切り返すとアヤネの背後にはシーツでぐるぐる巻きにされた何かが4〜5体宙に浮かんでアヤネを覆うように見下ろしているのがゾッとする恐さ。このキレのある編集は深沢佳文さんによるもので、実は後述の『カルト』でも深沢さんが編集を担当しているのという偶然
ところでホラー映画ではアイドルを起用する機会が多いですが、今回僕的にグッと来たのはアイドリング!!!25号の後藤郁ちゃん!メイキングを見て映画初出演と知って驚きましたが、長い白髪やらかさぶたやら口から何かを出すというアイドルだからこそ見ていて楽しいシーンを上手く演じていたので今後注目して行きたい一人ですね。
エンドロール後も後味の悪さは残るものの、『先生を〜』とはまた違った後味の悪さ。「あの廃墟に入った時点でお前ら全員終わりだから」とどう頑張ってもダメだったんだという後にして分かる絶望感。これがまた日中に悲劇が起こるから憎いんですよね〜。「ホラーだからって昼とか夜とか暗いとか明るいとか関係ねーから」と製作側から叩き付けられてるようで、嫌〜な気分になりました(笑)褒めてますよ!


もう一本は白石監督の『カルト』。
ストーリーは番組の企画として、あびる優、岩佐真悠子、入来茉莉(全員本人役)が怪奇現象が起こる家を霊能者と共に除霊し、それをレポートしてもらうという内容。
『戦慄怪奇FILE〜』を見てフェイクドキュメンタリーの新たな可能性を感じてすっかり白石監督の虜なのですが、近くのレンタル店に他の作品があんまり置いてないんですよね。あっても貸し出し中とか。なので今作と『戦慄怪奇FILE〜』シリーズの5作品しか観れてないのが悔しいところ。とは言っても、その5本だけでも白石監督の非凡なアイディアとキャラクター造形は本当に凄くて。まず、登場人物に必ず一人はおかしい人がいる。おかしいっていうのは、普段僕達が街中で、本能的に心の中でしているような「あの人はちょっと普通ではないな」という線引きがありますよね?その線の向こう側にいる人たちのこと。いい例が『戦慄怪奇FILE〜』シリーズに登場するメインキャストのディレクター工藤。基本的にこのシリーズは怪奇映像を投稿してくれた協力者と共に実際に現場に赴きその事象を検証するというのが軸にあるのだが、彼の何がおかしいって「霊を捕まえる」というどう考えても理解できない絶対にブレない信念の下に行動しているところ。故に人間と霊やその他の事象に対してもの凄くストイックに接する為、時には度を超えた暴力が飛び出すこともあり、それによって生まれる思わず笑ってしまうシーンやシリーズ毎に登場するおかしい人らが織りなすドラマも見所の一つなっている。
そして今作のおかしい人は、中盤から現れる謎の霊能者ネオがそれにあたるでしょう。演じているのはなんと『仮面ライダーオーズ』でアンクを演じていた三浦涼介!なぜ彼を起用したのだろうと鑑みるに、アンクを演じていたことが一番だと思うんですよね。敵でありながらも自分の欲望のためにオーズを利用し、結果的にサポートし共闘していく様は今作と通づるところはある上に、ヒロイックに描かれているのは何か必然性を感じますよね。話し方や雰囲気、振る舞いなどアンクそのもので出て来たときは非常にワクワクしました。
クライマックスに向けて判明する謎のカルト教団の存在は斬新で、その時点から闘うべく相手が霊に加え、人間が生む驚異的な残酷さや狂気にシフトしていくのがこの手のフェイクドキュメンタリーでは新しいと感じましたね。しかも次回作を臭わせる締め方。まあ次回作は無いと思いますけど。これで本当にこの続きをやったら想像もつきませんが、それは白石監督作品なら毎度のことなので期待せずに待ってみようかと思います。



どちらも低予算ながら工夫とアイディアを凝らした良作だし、ホラー映画のマンネリ化を感じてる人にこそ観て欲しい作品!絶対に今まで観たことのないものが観れるのでぜひともご鑑賞あれ!


2013年12月3日火曜日

トリップのトリップによるトリップのためのトリップムービー『メタリカ・スルー・ザ・ネヴァー』





『メタリカ・スルー・ザ・ネヴァー』(字幕)

原題:METALLICA THROUGH THE NEVER
2013/アメリカ/92分
監督:二ムロッド・アーントル
製作:シャーロット・ハギンス
脚本:二ムロッド・アーントル、メタリカ
出演:メタリカ、デイン・デハーン

ストーリー:メタリカのコンサートスタッフであるトリップは、バンドにとってある重要な荷物が届いてないことを告げられる。タイムリミットはライブ終了までの90分。街中を行く最中、制御不能になった車に激突され、そこからトリップの不思議な冒険が始まる。


高校生のとき、中古CDショップでたまたま見つけたアルバム『Kill' Em All』のジャケットがかっこよくて購入したのがメタリカとの初めての出会いだった。その後もアルバムを追いに追っていたが、結局熱心なファンとは言えないくらいに留まった。とは言え、メタリカの轟音ライブを映画館で、しかもIMAX 3Dで観れるとなったらちょっと興味が湧く。

コチラがそのジャケット。高校生には優しい半額セールをやっていて、450円くらいでした。


だがしかし!僕がこの映画を観にいくにこぎ着けた理由は、もう一つの見所でもあるデイン・デハーンに他ならない!『クロニクル』が初デハーンだったのだけれど、暗い雰囲気と腹にイチモツ抱えたような顔つきと鋭い眼光!一回観て、すぐ惚れてしまいましてね。ほいで、もともとこの映画にデハーンが出演してるのは知らなくて、TwitterのTLに感想が流れてきたときにデハーンについて評価していたので「出てるのか!」と。しかも役名がトリップときたら コレはもう観に行くしかありません。
毎度のことながら本編前のIMAXのカウントダウンは素晴らしい。何度観ても涙が溢れて心の中で親指が上がっちゃいます。まあ、その話は良くて、映画冒頭、得意気にスケボーするデハーンがもう既にかっこいい。その後コケるのもまた良し。デハーン演じるトリップ(名前が最高)はバンドをステージ裏でサポートするローディーなのだが、メタルバンドのローディーというだけあって小綺麗さの欠片もないイカツイ衣装がまたデハーンの暗く陰鬱な雰囲気に合致している。そんなトリップが仕事をサボってライブを楽しんでいると緊急ミッションが下される。その内容は「バンドにとって大切な荷物がまだ届かない。どうやらそれを積んでるトラックがガス欠してるらしい。急いで取りに行ってくれ。」 ローディーというより完全なパシりになってるのは置いといて、めんどくさそうな顔をするものの文句一つ言わず引き受けるトリップのメタリカに対する愛情は大きい…んだと思う。
そこからメタリカのライブとトリップのちょっとした冒険が交差しつつクライマックスへ向かうのだが、この映画、トリップのパートは文字通りトリップムービーと言っていいほど訳が分からない展開なのだ。何やら街では暴動が起こっているのだが、話が進むにつれ「現実ではない何か」の空気感が張りつめる。その現実との線引きを担うのが超現実的な存在である馬に乗ったガスマスクキラーである。



カウボーイの如く暴徒の首にロープを括り吊るし上げる。警官隊と暴徒達のどちらにも属していないガスマスクキラーはトリップの冒険を象徴している存在でもあると思う。
余りに凄惨な光景にトリップはガスマスクキラーに石を投げて追いかけ回されるが、上手いこと乱闘騒ぎの中を逃げ切ったトリップは、ガス欠したトラックを発見するがドライバーは何かに怯えて震えているだけ。荷台を開けると”バンドにとって大切なもの”と思われる鞄が入っている。この中身が何なのかは最後まで明らかにはされない。トリップの冒険のマクガフィンとして設置されているもの・・・と捉えられるが、無粋ながらコレはある意味でトリップできるものなんじゃないかなーと(笑)。
そんな折、一人の男が手招きをしている。するとその後ろから暴徒の群れとガスマスクキラーがこちらに向かってくる。この後、トリップは自らを炎に包みこの暴徒達に殴り掛かる。そして目が覚めると何故かビルの屋上に。前にはガスマスクキラー。危うく吊るされそうになるものの、なんとか斧を取り上げ振りかざす。地面がバキバキと割れ、周囲のビルの窓ガラスがバリーーン!ビル自体もボロボロ崩壊!もう訳分かりません!
ただ、トリップが炎に包まれたり、周囲のビルの窓ガラスが割れたり、ビルが崩壊したりといった非現実的行為がすべて、メタリカのライブに反映されてるのです。これはライブ序盤、ローディーでありながら観客席のすぐ横でノリにノる姿や、パシられるものの文句一つ言わないで出かける姿を観るに、憧れのメタリカの側にいるものの、どこまで行っても遠い存在である彼らの一部になりたいという欲求がもたらしたものだと取れます。ガスマスクキラーを倒すビル崩壊シーンは一番顕著に出ていて、ステージセットが壊れたり、けが人が出る惨事になり、メタリカのライブ自体が止まってしまいます。その後ライブはその状態のまま続行されますが。

もう火事。

トリップの行動が反映される仕組みも面白いですが、ステージ上のセットや演出が凄く凝っていて非常に見応えがありました。
電気椅子から電気が走り出したり、棺の形をしたモニターにもがく人を移したり、火柱が立ち上がったり、女神像を組み立て、崩壊させたり、バラードのときにはグッとライティングや動きを抑えメリハリのライブになってました。

総じて映画全体の比率としてライブ映像とトリップの冒険は8:2くらいの割合です。が、やはりデハーンのスター性とハードコアな暴動シーンによりなかなか濃い内容になっている。正直デハーン目的で観るには思っているほどボリュームが少ないかもしれないが、この機会にメタリカのライブパフォーマンスを観るのも非常にオススメ。
IMAX 3Dというだけあって映像、音響は最高でしたが、3D効果薄いかなと。何にしても視覚的、聴覚的にかっこいいのでぜひオススメです。