明けましておめでとうございます。
と、いうことで2012年ですね。自分は大学を卒業して社会人になります。まあ身の上話はどうでもいいと思うので本題へ。
1月14日 109シネマズ湘南へ『ヒミズ』を観に行って参りました!今年初の劇場鑑賞フゥーー!!
ちなみにネタバレ含むレビューなので注意。あくまで個人の見解なのであしからず。
原作:古谷実 監督:園子温 出演:染谷将太 二階堂ふみ
どこにでもいる中学3年生の祐一(染谷将太)の夢は、成長してごく当たり前のまっとうな大人になること。一方、同い年の景子(二階堂ふみ)の夢は、自分が愛する人と支え合いながら人生を歩んでいくことだった。しかしある日、2人の人生を狂わせる大事件が起き……。
(シネマトゥデイから抜粋)
公開初日にしては7割くらいしか席は埋まってなかった。うーん神奈川じゃ埋まってるほうか。
あと隣に座ってたヤンキー高校生がバリバリ板チョコを食っててそれが少々気になる状況下で鑑賞。
いやー観た直後の感想として・・・
久しぶりに映画に殴られた!素晴らしい!!・・・が、原作ファンから見るとちょっと・・・。
監督インタビューを読むと「震災を無視して『ヒミズ』は撮れない」とおっしゃってて、というのは原作漫画『ヒミズ』は2001年の日常の中に潜む絶望やリアルを描いた作品だったわけで、それを2011年に実写化する上で監督は日本全土の問題である震災を無視できなかった というわけですね。2011年のリアルを描かないと意味が無いと。
なので劇中では震災後 瓦礫の山と化した街がドストレートに映し出されます。
映画冒頭から瓦礫の街を見せる。ここでもうぶん殴られます。そのときにしか撮れない映像、その年を反映させた映像ってのはなかなか無いですからね。
その後も話の合間合間にガイガーカウンターが鳴る瓦礫の街のシーンを挟むことで、フィクションだけどフィクションという枠に収まり切らない2011年のリアルを根底に置いて園子温版『ヒミズ』を観ることができるんですよ。
で、物語は茶沢のヴィヨン詩集の音読から始まります。
”ミルクの中の蠅、その白と黒はよく分かる。お前が働き者か怠け者かも分かる。要するになんだって分かるなんだって分かる。血色の良い顔と青白い顔の区別も分かる。すべてに終末をもたらす死も分かる。なんだって分かる。自分のこと以外なら。”
コレに関しての演出で凄いのがありまたよ。まあ劇場で確認してみてください。ヒントはミルクの中の蝿です。
この詩の解釈は様々だと思いますが、住田そのものですよね。
住田っていうキャラクターは普通な生活を送りたいけど、実生活は普通とは少し離れた位置にいるんですね。そして常に自分のことを捻くれた視点からしか俯瞰できない皮肉めいた小僧なわけですけど。それ故に普通とはどんどん遠い位置に行ってしまうと。
彼の誰かに向けてる言葉ってのは同時に自分にも向けてると解釈してもいいと思います。
この導入部分はいいと思います。
そして本編へ。
うーん、ここで描かれる住田が普通じゃないんですよね。
担任に「夢はなんだ?ボート屋を継ぐなんてやめろ」と言われて「ボート屋なめんな・・・普通サイコーーー!!!」と高らかにピースサインを上げるんですね。
これ普通じゃないですね。
原作の住田は「先生と目を合わせずモグラのようにひっそりと暮らすんだ」と言ってました。
この時点で「あ、これはヒミズであってヒミズではないな」と確信しました。
園子温版住田は震災を受けてどこかやけくそになってる印象があるんですね。これってこの映画の根底にあるものだからキャラが少し違うってのはある意味必然なのかなーと思いました。
そしてですね、茶沢も違うんですね。原作に比べてかなり変態に描かれてるんですよね。
もうストーカーレベルで住田に興味を示している。驚愕なのは住田語録を紙に書いて自室の壁に貼りまくってるというエクストリームっぷり。
しかしこれ、住田がどんなキャラかってのが一発で分かる演出でもあるんです。原作にあった漫画家を目指すきいちを取り巻く話がオールカットされてる分 このシーンで住田の日常が分かるわけですけどもね。
今作ではなぜ茶沢がそこまで住田に興味を示すのかが明確に描かれています。
茶沢の家庭も住田と通ずるものがあって、なんと両親が絞首刑台を家の一室に作ってるんですよ!!これは普通に笑いましたね。園子温監督らしい描写ではあるけど、ぶっとびすぎだろ!!っていう。
アレは何故あそこまで極端な描写にしたのか分かりませんし、自分はギリ許せましたけど人によっては「は?ふざけてんの?」となりかねない。
で、そこまで派手な描写の割には、この両親がなぜ茶沢を必要とせずにあそこまで死を願ってるのかイマイチよく分からない。とりあえず「お前のために使う金はねーんだ!早く死にやがれ!」というニュアンスではあるんだけど、もっとシリアスにちゃんと描けばもっと茶沢の行動に説得力と重みが増したんじゃないかなーと。まああの両親に情けを持たせるような描写にしたくなかったってことかなーうーん。
ちなみに園子温曰く「絞首刑台完成披露パーティーのシーンもあった。でも2時間に収めるためにそこはカットした。」
え、どゆこと!!!?っていう・・・。
これはDVDにぜひ収録していただきたい珍シーンではないかと・・・。
あと原作と大きく違う点として震災を受けた放浪者が登場する点ですね。彼らは住田のボート屋に近くにホームレスさせてもらってる住人達なんですね。この面々がほとんど園組だから絵面が豪華です。
吹越満と神楽坂恵のあのラブラブ感!!『冷たい熱帯魚』では散々だったけどやっとラブラブできたね!っていうイチャつき具合も微笑ましい。
でんでんの「今すぐバラバラにしてやろうか!!?その歳の臓器なら飛ぶように売れるぜ!」という“『冷たい熱帯魚』テイスト”を微かに匂わせつつも、住田に告げるあのヤクザの生き様!!?かっけーんだよ!!でんでん!!でんでん最高!!
そして!!今回個人的にでんでんと並ぶベストキャラは渡辺哲演ずる夜野正造!
コレ原作の中学生設定を震災を受けて放浪してきたおじさんに変えてあるんですよ。
これは
大正解だと思う!!
でんでんに600万を渡すシーン
。「俺もあんたもいってみりゃ過去だ・・・俺は・・・あの子に未来を託したいんだ!!!」
コレねぇ、被災して放浪してきて住田に世話になってる渡辺版夜野だからこそ言える最高の餞別の言葉だよね!600万を手にする過程はどうあれ、本当に感動した!渡辺哲も最高!!!
ここまで何度もぶん殴られシーンを紹介してきましたが、一番にぶん殴られたのは住田が父親を殺すシーン。
コンクリートブロックを持って一回落とすんです。この踏みとどまり演出が凄く人間臭くて良いんです!でも拾っちゃうんですよねー。で、殺しちゃうんですよ。
その後の我に返って「親父!!!オイ親父!何でだ!何でだよ!!あああああああああ!!!!」と普通じゃなくなってしまった決定的慟哭シーンも非常に良かった。
ラストにかけて茶沢が住田に言った「価値観を変えざるを得ないんだよ」というのはとてもハッとさせられたし、その上でラストの「ガンバレ!!」は、「もう頑張るしかない、希望を持つしかない」という希望と絶望が表裏一体となった言わばやけくそな「ガンバレ!!」と解釈した。
これは記事の冒頭に書いたやけくそな住田という映画の根底にある2011年のリアルを反映させたキャラクターに贈る言葉として非常に一本筋が通った素晴らしいものだなーと感動しました。
その反面!!
原作ファンとしては「あー希望を持たせるのか」と少々寂しい気持ちに。
「あ、これはヒミズであってヒミズではないな」と確信したと書きましたが原作では住田は銃で自殺するんですよね。原作は日常の中の絶望を描き、映画は非日常の中の絶望の果てを描いてるわけなので、これは全然変わってきますよね。
ここに関しては賛否両論あるみたいですが、自分は非常に快く鑑賞できました。
主演二人だけでなく、出演者全員の演技が本当に本当に素晴らしいので、ぜひ激情でご覧ください!
原作を読んでない方は読まないで鑑賞しても支障はないので大丈夫です。オススメです!